Xさんは農家で、母親から贈与された農地をずっと耕作していました。ところが、その土地の一筆が未だに母親名義であることがわかりました。
母親は死亡していますので、他の相続人の協力がなければ自分名義に登記できません。兄弟や代襲相続人の甥、姪に協力を要請しましたが、残念ながらはかばかしい返事をもらえませんでした。
どうしたらいいでしょうか?
(1) 対応策
考えたのは二つです。
一つは、当該一筆を除いて他の土地は、生前贈与がされていましたので、単に登記を忘れていただけとも思われました。したがって贈与による登記をすることです。もう一つは、共同相続人に対して、時効取得の主張をすることです。
いずれも、登記手続を求める裁判を起こすことが必要ですが、どのような法律構成にするかは迷うところです。
贈与については、他の土地の贈与による登記が既に20年以上も前の事でしたので、母親の意思の立証は簡単ではありません。
他方、時効取得については、共同相続人の一人からの時効取得は特別の事情がない限り認められません。「所有の意思で占有している」という要件をみたすことが難しいからです(共同相続人ですから、他の相続人の持分があると当然知っていることになるからです)。
(2) 裁判
結局、時効取得による登記を求める訴訟を行いました。
他の相続人は登記に協力はしてくれませんでしたが、裁判では特に争ってきませんでした。おそらく、Xさんが贈与を受けた、あるいは母親が単独で相続させる意思であったことを知っており、かつ母親死亡後も自らのものとして土地を耕作し、他の人もそれに一切文句をいっていなかった、というような事情があったからではないかと思います。
したがって、第1回口頭弁論で期日は終結。申立通りの判決となって、登記をすることができました。ただ、他の相続人が争ってきた場合は、難しい裁判になっていたかもしれません。